岡田舜 安部悠介 二人展 底のない深さ
Shun Okada & Yusuke Abe exhibition “Unfathomed Depth”

2021年 11月6日(土) – 11月21日(日)

会場: gallery commune

バグ映像を投影し、その図像を絵筆でなぞることで不確実な創造への挑戦を続けるアーティスト 岡田舜。そして、多角的アプローチで絵と向き合い、真理を求め続ける画家 安部悠介。同世代で互いに刺激し合う二人による展示「底のない深さ」を開催します。

今回の2人展は、岡田舜が安部悠介に声をかけたことから始動しました。岡田の発案の経緯には、単に安部が学生時代からの友人であるということのみならず、現在の岡田自身を取り巻く状況に端を発する、様々な意図があったようです。

バグを発生させたファミコンの画面をキャンバス上に投影し、精緻な筆触の油彩に置き換えていく、という岡田の制作手法は、一見システマティックかつ主知的なものにも見えます。しかし彼はその制作過程において、自らの意図を超えた外的要因を介入させる、という選択を度々行ってきました。間違えて塗った色をそのまま採用したり、緻密に積み重ねた絵具を生乾きのまま掻き回したり……特徴的な一例としては、地震の揺れによって筆跡が乱れた瞬間を以って“完成”とした作品もあります。それは彼にとって、絵画制作への前衛的・理知的なアプローチでありながら、それ以上に、もっと言語化しがたい“偶発的に訪れる創造の瞬間”とでもいうべきゾーンに到達するための切実なダイブに他なりません。そして現在、自身の制作活動や、日本美術界という閉鎖的な環境に対して一種の行き詰まりを感じているという岡田は、それらの状況を打破する手段の1つとして、安部悠介という画家と展覧会を共にすることを通じ、自らの中に凝固してしまっているものを破壊することを目指しているようです。端的にいえば、先述のような「外的要因」の1つとして安部を起用した、ともいえるでしょう。

これまでの安部の作品では、少年時代に経験した釣りや昆虫採集、あるいは’90年代後半~’00年代初頭のテレビゲームやカードゲームなどの具象的なモチーフが中心となってきました。その一方で、直近数回の展覧会においては、木材やプラスチックなどの異素材や、非具象的な形態の図像を多用した、一見するとかなり抽象性の高い作品のみが発表されています。しかしいずれのタイプの作品群に関しても、表面的な性質の違いはあれど、彼の感覚の中枢にあるものは変わりません。色や形、質感、そしてそれらを描いていく際の自らの実感が、どのように1枚の絵の中に結実し、成立するか。安部が常に探り、確かめてきたのは一貫してこうした事柄であり、日頃から膨大な数の作品を生み出していく中で、そのための発想や手段が絶えず発展・多様化してきたのです。今回の展覧会では、少し久しぶりに“具象的”なモチーフを用いた作品が中心となりそうですが、そこにもやはり、変わらずに在り続ける核心とともに、着実な進化を経た彼の最新の技術や感覚が宿っています。―――そのようにしてパワフルかつ誠実な前進を続ける安部との2人展が、自らに対してショック療法のように機能してくれることを、岡田は望んでいるようです。

岡田と安部という2名の作家について考える時、画中に描かれたモチーフなどの表面的要素を抽出し、彼らの作品群をサブカルチャー史やメディア論などの視点から捉えたり、ポストモダン的な文脈や現代社会が内包する様々な問題に紐づけたりすることは、美術史学的 / 批評的な言説においてはある程度必要なことかもしれません。しかし恐らく多くの場合、それらは比較的容易なことです。彼らの制作のコアにあるものは、もっとシンプルでありながら、もっと名状しがたいものに思えてなりませんし、特に今回の2人展においてはその発露や観測こそが重要なテーマになってくるでしょう。それは一言でいえば「1人の人間がどのように絵画と向き合い、どのように1枚の絵を生み出していくか」ということの中にある、切実さや誠実さ、あるいは底のない深さのようなものです。繰り返しになりますが、とてもシンプルで、恐らく最も名状しがたいものです。

text:田中耕太郎 / インディペンデント・キュレーター

岡田 舜 | Shun Okada
1992年 茨城県生まれ、東京在住。アーティスト。
instagram: @oka_un
https://shunshon.tumblr.com

安部 悠介 | Yusuke Abe
1993年 山形県出身、2016年 多摩美術大学油画科卒業、2018年 多摩美術大学大学院修了。
現在 埼玉県を拠点に活動。画家。